KNOWLEDGE 中小企業のための戦略広報導入ガイドKNOWLEDGE 中小企業のための戦略広報導入ガイド

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この文書は、次のような悩みを解決します

・いい会社なのに”伝わっていない”
・採用がうまくいかない、離職がとまらない
・SNSが続けられない、何を発信すべきかわからない
・価格競争から抜け出したい
・創業の精神や理念が形骸化している

内容をざっくりいうと

1.現代の広報は「経営の言語化」である
2.社会情勢の変化が、広報を“経営機能”に押し上げた
3.地方の中小企業こそ、物語を武器にブランド化できる
4.理念→物語→発信の三段階で企業は変わる
5.戦略広報は、社員の自主性・採用・離職などを改善する
6.導入は8ステップで体系的に進められる

当事務所:PAPERBACKについて

PAPERBACKは、企業活動をコンテンツ化し、 理念を社会と共有する “コンテンツドリブン経営” を支援しています。

代表:森川耕太
金沢大学ドイツ語ドイツ文学科卒。1997年より地域の出版社、金沢倶楽部で情報誌の制作に従事。月刊『金澤』広告部門責任者。2020年金沢倶楽部倒産後、「箔一」にて広報を担当。
2023年4月に事務所を設立。 「地方企業の物語を社会に届ける」ことを使命に活動中。

目次
1.はじめに:中小企業のための「戦略広報」導入ガイド
2.現代の中小企業に「戦略広報」が必要な理由
3.経営を加速させる「戦略広報」の目的と導入メリット
4.中小企業が戦略広報を成功させるための「3つのアプローチ」
5.実践!戦略広報を体系的に導入する「8つのステップ」
6.まとめ:戦略広報は中小企業の未来を創る経営機能

1|はじめに:中小企業のための「戦略広報」導入ガイド

この記事では、現代的な経営の課題と、それに伴って変化した広報の役割について紹介します。課題解決の手段としての「戦略広報」について詳しく説明し、特に広報専従のスタッフを置くことができない中小企業に向け、有効な処方箋となる考え方と、進め方について詳細な説明をしていきます。

1-1. 現代の経営課題を解決する「戦略広報」とは

日本広報学会は2023年に、広報の定義を改めました。新しい定義とは次の通りです。「組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である」。大きな変化は、広報を「経営機能」としたことです。広報は、「無料の広告枠」としての取材記事を獲ってくる部署から、企業価値を高める活動へと変化したのです。

1-2. 広報専従スタッフがいない中小企業への処方箋

現代の企業経営において広報活動は極めて重要となっています。しかし一方、ほとんどの中小企業では広報専従スタッフがおらず、ノウハウの蓄積もありません。そのため情報発信が停滞するケースが頻繁に起きています。

この文章は中小企業にむけて広報にまつわる社会背景や、広報戦略の考え方、また導入プロセスまで丁寧に解説していきます。これらを理解し、書いてある通りに実践すれば、広報未経験の中小企業でも戦略広報への取り組みができるようになるでしょう。

2|現代の中小企業に「戦略広報」が必要な理由

2-1 従来の広報活動と「戦略広報」の決定的な違い

社会の変化とともに、広報の位置づけが変わりました。メディア掲載を狙ってリリースを出すことが仕事だった広報は、現在では、企業の理念と活動を物語として表現し、社会からの共感を得る経営機能とみなされるようになりました。戦略広報とは、いわば「経営の言語化」を担う役割です。この活動が重要となった背景には、経営を取り巻く環境の変化があります。

従来の広報と戦略広報の比較

従来の広報 戦略広報
目的 ニュースリリースを配布、メディア対応 企業理念の浸透
KPI メディア掲載数 行動変容・態度変容
(離職率低下やSNSでの言及など)
経営の関与 結果の確認のみ 経営の主要な課題

【参考】企業価値を高めるPR
【参考】広報がなぜ大切なのか
【参考】戦略広報の考え方とは

2-2 自社発信型の広報への転換:戦略広報が重要になった背景

戦略広報が重要になった背景には、様々な社会の変化があります。その一つは、情報化社会の進展です。
インターネット以前は、人々はマスメディアを通じて情報を得ていました。この時代には発信力は資金力によって左右されました。高額なCM料金に加え、15秒や30秒といった時間で会社を知ってもらうために、一流のクリエイターが知恵を絞って作品を生み出しました。湯水のごとく広告にお金が使われるなか、資本力で劣る中小企業は戦う術を持ちませんでした。
現代では、情報発信の主役はWEBサイトやSNSとなりました。企業はマスメディアを介さず、直接社会へ語りかけられるようになった一方、企業内部でコンテンツを作る必要が出てきました。また個人の発信力も高まり、デジタル空間での評判が企業ブランドに大きな影響力を持つようにもなりました。そうしたなかブランドイメージを守りたい企業は、広報力を拡充して、自ら積極的に情報を発信するようになっています。広報を通じたブランディングです。

情報化社会の変化

マスメディア中心の時代 WEB・SNS中心の時代
情報発信 マスメディアを通じた発信 企業が社会へ直接発信
戦略 大量の露出 SNSやWEBを通じた共感の獲得
目的 認知拡大による市場制圧 企業価値を社会へ広げる
焦点 クリエイティブや費用対効果 デジタル空間での企業イメージ

【参考】広報のコンテンツは、むしろ手作りが良い
【参考】過大評価されるメディアの力

2-3 地方の中小企業が「物語」を武器にブランド化する時代

この状況は、地方の中小企業にとって大きなチャンスとなっています。
資本力がモノを言う時代が終わり、SNSの時代では企業の個性が競争力につながるようになりました。その結果、地方に本社を置く中小企業のなかから、ブランドとして認知されるケースが増えています。彼らが武器としているのが「物語」です。信念のあるトップや綿々と築き上げてきた技術、誇り高い社員たちの姿が魅力的なコンテンツとなったのです。さらには地元に根差すことで、地域文化を「借景」として使えることも強みとなりました。
ブランドとは、企業への社会的な認識の蓄積です。中小企業は自分たちの個性を物語として発信することでポジティブな認識を積み上げ、ブランド化に成功しました。この時代の代表的なブランドは、奈良の「中川政七商店」や新潟の「スノーピーク」、軽井沢の「ヤッホーブルーイング」、愛知の「バーミキュラー」、岩手の「ヘラルボニー」、愛媛の「イケウチオーガニック」などでしょう。

ブランド化する地域の中小企業

社名 本社所在地 企業理念 共感ポイント
中川政七商店 奈良県奈良市 日本の工芸を
元気にする!
全国800超の工房と連携し
工芸産地の経済的自立を支援
Snow Peak 新潟県三条市 人生に、野遊びを。 ユーザーとの共創文化と
永久保証による信頼関係
ヤッホー
ブルーイング
長野県
軽井沢町
ビールに味を!
人生に幸せを!
ファンイベント「超宴」で
熱狂的コミュニティを形成
Vermicular
(愛知ドビー)
愛知県
名古屋市
手料理と、生きよう。 倒産寸前の町工場から
世界最高の鋳物ホーロー鍋を開発
ヘラルボニー 岩手県盛岡市 異彩を、放て。 障害のあるアーティストと
対等な関係で福祉を変革
イケウチ
オーガニック
愛媛県今治市 最大限の安全と
最小限の環境負荷
「赤ちゃんが食べても安全」
を目指す品質と透明性

大手企業とマスメディアが結託し、大量の広告投資によってブランドを創る時代から、中小企業がWEBやSNSを通じて物語を発信して、共感を軸にブランドになる時代へと変わりました。

【参考】なぜ日本にLVMHが生まれないか
【参考】現代のラグジュアリーとは

2-4 【戦略広報の成功事例】企業の社会的役割(パーパス)と本業の融合

企業の在り方も変わりました。いまでは利益を上げるだけでなく、企業姿勢や社会的な役割をも求められるようになっています。社会的な価値を発揮できる企業は、人々からの応援を受けて事業を加速させていきます。逆に社会を味方にできない企業は、推進力を削がれることになるでしょう。
例えば、電気自動車メーカーの「テスラ」は「持続可能なエネルギーへのシフトを世界中で加速させる」と宣言し、事業をその手段と位置付けています。彼らにとって事業展開は地球環境を改善するための取り組みです。企業の理念、社会的価値、商品・サービスのすべてが一貫しているからこそ、社会はテスラに関心を持ちます。テスラのファンは、単なるスペックの比較ではなく、企業の思想やビジョンに共感して同社を選んでいます。これは、広報によって新たな価値を生んだ事例と言えます。

企業の社会的価値と本業を融合

企業名 パーパス(企業理念) パーパスに基づく取り組み
テスラ 持続可能なエネルギーへの
世界の移行を加速する
EV・蓄電池・ソーラー事業の
統合エコシステムで脱炭素を推進
パタゴニア 私たちは、
故郷である地球を救うために
ビジネスを営む
会社の所有権を環境信託に移管
売上1%を環境保全に寄付
Worn Wearで製品の修理・再利用を促進
ダイキン工業 空気で答えを出す会社 集中力を高める空気
運動効率が高まる空気
野菜や果物を遠くまで運べる空気
ファースト
リテイリング
服を変え、常識を変え、
世界を変えていく
「究極の普段着」を目指し、
デザイン・価格・品質・機能性などを追求
Amazon 地球上で最もお客様を
大切にする企業になる
フリクション(摩擦、不都合)をなくす
洗練された顧客体験

2-5 採用難・離職など、現代的な組織の課題に広報視点から取り組む

さらに、組織の内部にも新たな課題が生まれています。
現在、新卒の採用活動は極めて難しく、また離職を止めることもできません。さらに、時代の空気が変わり、かつてのような上意下達の組織運営もできなくなりました。これまで企業は終身雇用を前提とし、生活の安定と組織への忠誠という暗黙の了解のもとに一体感を維持してきました。しかしいまは、一人ひとりが人間として尊重されることを望んでいます。個人の自由と組織の規律を両立することは、相当な矛盾をはらんでいます。強制力が働かないなかで、組織をまとめるために重要性が増したのが「企業理念」です。

組織と個人の関係性の変化

従来型組織 新しい組織
形態 ピラミッド型 フラットな関係性
意思決定 上意下達の指示系統 理念への共感と対話
個人と組織 生活の安定と引き換えに
組織に忠誠を誓う
理念の実現に向けて
協力する仲間
働く意味 出世と給与 仕事を通じて
人生を充実させる

なお、ここでは企業理念を広い意味で使っています。これはビジョンでも、パーパスでも、ミッションでも、バリューでもかまいません。自立した個人が、組織の一員として誇りをもって働くための、魅力的な思想の総称とします。

【参考】ブランディングは社内から
【参考】採用ブランディングとは
【参考】インナーブランディングの3つの視点
【参考】理念が企業と個人をつなぐ
【参考】広報は、対話の一種である

2-6 インナーブランディング:企業理念を社内に機能させる方法

かつて企業理念とは、社長の誓いであり、組織統合の象徴でした。
企業理念を額に入れて飾り、一人ひとりはこれを暗唱させられました。一言一句間違えずに唱えられることが、組織の一員としての自覚を表現しました。これは統制や規律を重視した、高度成長期の企業文化が生み出した習慣です。
いま、このようなやり方は効果を発揮できなくなりました。現代の組織では、企業理念とは、社員一人ひとりにとっての誇りであり、働く理由でなければなりません。そして大事なことは、理念の意味を一人ひとりが受け止め、日々の仕事に落とし込むことです。
一人ひとりが理念を理解し、全体への貢献に向かうには、絶え間のない対話が必要です。その土台を作るのは社内広報です。会社が今何を考えているか、どのような方法で企業理念を実現しようとしているかを常に共有することで、組織の想いと個人の想いに共通の土台が生まれます。これが実り多い対話の条件となるでしょう。

企業理念の意味

これまでの企業理念 これからの企業理念
意味 組織統合の象徴 働く意味、社員の誇り
活用 全員が丸暗記 仕事に意味を与える
浸透 朝礼での一斉唱和、額に入れて飾る 情報共有と対話
効果 組織への忠誠心 社員エンゲージメントの向上
イノベーションの促進

【参考】思考型の経営理念とは

3|経営を加速させる「戦略広報」の目的と導入メリット

戦略広報とは、企業と社会の関心が重なる地点を見つけ、企業の取り組みを魅力的な物語として発信し、人々の認識を変え、行動の変化を促していく活動です。これは、組織・商品・顧客体験を理念に紐づけて構造化し、社会的価値を与えることともいえます。現代の広報とは、単なるPR活動ではありません。企業理念を社会と共有していく経営活動のことになっています。また社内に向けたインナーブランディングへの意識が高まっていることも特徴です。
戦略広報に取り組むことで、下記のような効果を得ることができます。

3-1. 組織と社員に生まれるポジティブな変化

日々の取り組みを企業理念と結び付けた物語として発信することで、社員は仕事に「意味」を見出すことができます。自らの仕事の意味を理解する社員は、自ら考え、自ら行動して成果を生むことができます。また共通のビジョンを持つことはチームワークを改善し、人間関係の課題を解決します。

3-2. 事業と経営の一貫性を生む

企業理念が形骸化すると、経営と現場の一貫性が失われます。社員はなぜ働いているのか理解できなくなり、給与や待遇への不満を抱き、そのストレスは社内のハラスメントを生む原因ともなります。戦略広報が目指すものは、経営と現場を一つの物語でつなぎ、会社一体となって課題に取り組む企業文化を創ることです。

戦略広報によって目指す変化

分野 効果
組織・社員の変化 企業理念が意思決定の基準になり、判断のブレがなくなる
働く意味や自社の存在意義を理解し、仕事に誇りを持てるようになる
一人ひとりが自律的に考え、行動する組織になる
現場からの改善提案が増え、ボトムアップ型の事業推進ができる
信頼関係に基づいた、心理的安全性の高い企業文化が生まれる
活動が記録され歴史として残っていく
事業・経営の変化 すべての企業活動が理念と接続され、一貫性が生まれる
日々の判断に迷いが減り、意思決定のスピードが上がる
短期的な利益に流されず、中長期視点での経営できるようになる
自社の価値が明確になり、価格競争から脱却できる
顧客・外部の変化 顧客や取引先と価値観を共有できるようになる
“価格”ではなく“考え方”で選ばれるようになる
社会からの応援を得ることで、事業が加速する
社員がブランドを体現し、全ての顧客接点で信頼を積み上げられる
採用・周辺の変化 様々な顧客接点が生まれ、知名度が上がって採用コストの削減につながる
価値観に共感した人材が自然とあつまり、採用のミスマッチが減る
家族や地域社会からの理解・共感が得られる
不本意な理由での離職が減り、定着率が向上する

4|中小企業が戦略広報を成功させるための「3つのアプローチ」

戦略広報を実現する3つのステップ

戦略広報は大きく3つの段階を経て導入をしていきます。
①理念の構造化 → ②物語化 → ③発信と改善
また、本文ではこれをより細かく8つのステップに分解して詳述します

4-1. ステップ1:理念の構造化(何のために存在するのか)

企業理念は、日々の仕事に「意味」を生む構造です。すべての業務を理念と結び付けて意味を与えることで、企業のの社会的価値を築いていくことができます。

4-2. ステップ2:物語(ナラティブ)の構築(どのような文脈があるのか)

理念と業務が結びつくところに物語(ナラティブ)が生まれます。広報では「事実」を伝えるのではなく、事実と事実の間に生まれる「物語り」を表現することが大切です。魅力的な物語には、人々を巻き込み、共感を広げていく力があります。

4-3. ステップ3:仕組み化と継続的な情報発信(どう届けるのか)

広報業務は多岐に渡り、業務負担も小さくありません。また広報の成果を数値化することは難しく、意義を見出せないと負担感が募ります。現代の広報において重要なのは一貫性と継続性です。リソースの不足する中、どのように戦略的な広報を継続していくかを解説します。

① 理念の構造化
1. 企業理念の把握
2. ビジョンの明確化
3. 価値の発見
② 物語化
4. ナラティブの構築
5. ペルソナの設定
③ 発信と改善
6. 情報発信の設計
7. KPI設計
8. 改善

① 理念の構造化

ステップ 内容
1 企業理念の構造としての把握 組織の意思決定を一本化するための基盤づくり。理念とは部分と全体の関係性であり、採用・商品開発・店舗設計・SNS発信など個別の活動が理念と接続する全体構造。50の質問で構造として理念を把握する。
2 ビジョンの明確化 理念を輝かしい将来の姿として映像化する。企業理念が達成された末に見える理想の未来を描く。魅力的な夢でありながら実現できる計画があり、達成する意思と能力が伴うものとする。
3 社会から見た価値の発見 多くの人を味方にする社会的価値の表現。ビジョンが達成されたとき社会にどんな恩恵があるのか、価値を社会の側から問い直す。企業の夢が多くの人の夢へと変わる、パーパスの発見。

② 物語化

ステップ 内容
4 物語(ナラティブ)の構築 思想や存在価値を消費者が理解できる形にする。理念と活動を接続し「なぜその行動をするのか」を社会と共有可能にする。事実そのものではなく、事実に与えられた意味を表現する。
5 顧客イメージの創出 物語に心を込め、施策に熱を与える重要プロセス。一貫した広報施策のためにペルソナを設計する。明確なペルソナを持つほうがビジョン達成へのスピードが上がる。

③ 発信と改善

ステップ 内容
6 情報発信の設計 根性論ではない、続けるための戦術を策定。「ワンコンテンツ×マルチチャネル」のコンセプトで、一つの優れたコンテンツを様々なチャネルで配信しリーチを最大化する。
7 数値化、KPI設計 改善スピードを上げて成果に結びつける。広報活動を数値化し改善可能な状態に維持する。計測できるならマネジメントが可能となる。
8 改善・反省 経営との対話を通じて広報戦略を前進させる。戦略広報を経営会議のアジェンダとし、現場とマネジメントが対話することで相乗効果を生む。

5|実践!戦略広報を体系的に導入する「8つのステップ」

5-1.【ステップ1】現状の棚卸しと経営課題の明確化

企業理念とは、日々の仕事に意味を生み出す中心的な価値観です。
多くの会社で企業理念を丸暗記して、一斉唱和をしています。ですが、言葉を言葉のまま覚えるだけでは、理念の活用は進みません。あらゆる理念は、おおむね良いことを言っています。例えば「技術で未来を明るくする」という理念があった場合、これに反対する人はいないでしょう。しかし、“漠然と良いことを言っている”と感じられた時、理念はただの道徳となります。
理念を「意味を生み出す構造」として理解することで、その役割が明確になり、日々の仕事に誇りとやりがいを生む本来の価値を発揮します。

理念の機能は、日々の活動を一つにつなぎ、そこに意味を与えることにあります。例えば「Aさんの成功事例は、このような意味で企業理念の実現に結びついた」「Bさんの作った新商品は、こうして理念に基づいて生まれている」。そうした「意味」を表現することで企業理念は判断基準となり、人々を全体への貢献へ向かわせます。

【参考】センスメイキングとは
【参考】思考型の経営理念とは

企業理念とは、その会社の持つ思想や技術、歴史、人々の苦労などをたった一行にまとめて表現をしたものです。それは、企業のすべてを圧縮して閉じ込めたタイムカプセルのようなものと言えるでしょう。
企業理念の理解は、2つの方向に向かいます。一つは背景の理解です。それは、理念の1行に込められたすべての想いを理解することです。もう一つは、解釈です。例えば「技術で未来を明るくする」といった場合、「技術」とは何を指すか、「明るくする」とはどういうことかなどを、一つひとつ膨らませていくことです。解釈は、一行に圧縮された想いを解凍するプロセスであり、また次の人たちが新たな解釈を加えて企業理念を発展させていく契機になるものです。

圧縮された想いを、解凍する

例えば、「技術」にこだわる理由が、創業者の幼少期の原体験にあったとします。「幼少期に母親の苦労を減らしたくて、工夫して道具を作ったら褒められた。それが原点になっている」というエピソードがあれば、「技術」の意味が変わります。そして、今の技術者にとっての顧客を思う気持ちとの共通点を見出せれば、創業の原点と現在の仕事が一連のものであることに気づくことができます。

5-2. 【ステップ2】みなが目指すべき目標としてのビジョン

人々を駆り立てるには、魅力的な目標が必要です。冒険家が険しい山を登れるのは、そこに頂上があるからです。ただの坂道を延々と歩き続けるならば苦行でしかないでしょう。企業にも、向かうべき目的地が必要であり、企業理念が達成された先にある素晴らしい景色を語ることで、社員をモチベートすることができます。

ビジョンは企業理念から生まれますが、理念だけでは足りません。それが非現実的な夢では共感が得られないからです。企業の夢に実現可能性の高い計画が伴うことで、強いビジョンとなります。ビジョンとは「企業が得意なこと」「企業がやりたいこと」「社会が求めること」の3つの領域が重なる部分にこそあります。理念に加え、その会社の持つ独自性が魅力的なビジョンを生み出すのです。

【参考】ビジョンが企業を育てる

良いビジョンとは、夢と実現可能性を両立する

こうして生まれたビジョンは、会社を前に進めるための重要なエンジンとなります。

5-3. 【ステップ3】企業理念に、社会の視点から価値を見出す

企業理念やビジョンは社会に発信することで共感を生み、会社のブランドを作っていきます。しかし、企業の夢がすぐに社会の共感を得るとは限りません。戦略広報に取り組むのであれば、社会から見た価値を問い直す必要があります。もともとビジョンには、ほぼすべてのケースで社会的価値が含まれていますので、視点を変えれば社会的な関心事になります。スターバックスは、「最高のコーヒーを売る店」から「都市生活者のための第3の居場所」へと言葉を変えたことで、大きな飛躍を遂げました。自分たちの夢が社会の夢になったことで、共感が広がったのです。このフェーズでは、ビジョンを踏まえ、その社会的価値を問いなおし、社会に受け入れられるベースを作ります。

【参考】良いパーパスが企業を変える
【参考】企業の存在意義とは
【参考】パーパスとブランドの関係

ビジョンからパーパスへ

5-4. 【ステップ4】人々を巻き込む「物語(ナラティブ)」の作成

広報において、社会に伝えるべき情報は「ナラティブ」の形をとります。これは物語と訳されますが、ストーリーとは少し違います。定義を確認しておきます。
ナラティブもストーリーも日本語では、物語と訳せます。
ストーリーは起承転結があり、一方向に進みます。映画や小説などのパッケージになっているイメージです。ナラティブは、始まりも終わりもなく、現在進行形で進み、私たちを巻き込んでいくような物語です。例えば、思想的に対立する二つの政党があるとします。両者は互いに自分たちに都合の良い物語(ナラティブ)を発信します。どちらのナラティブを信じるかは、すなわち、その人の政治的立場を左右します。

ストーリーとナラティブの違い

ストーリー ナラティブ
構造 起承転結があり、完結している 始まりも終わりもなく、常に進行中
時制 過去形
(すでに完成した物語)
現在進行形
(今も展開し続ける物語)
視点 第三者が語る、客観的な物語 当事者が語る、主観的な物語
参加性 読者・視聴者は、受け手として鑑賞する 聞く人を巻き込み、共に物語を紡いでいく

情報化社会で多くの支持を集めるのは、魅力的で説得力のあるナラティブを発信できる企業です。ナラティブが語るものは社会であり、自社もまた登場人物の一人となります。例えばテスラは、気候変動という社会のテーマを語っており、テスラそのものは地球の危機と戦う登場人物の一人です。
企業において重要なのは、企業理念に基づいた物語を持つことです。「スノーピーク」は野遊び(キャンプ)による人間性の回復を使命として掲げています。一人ひとりの社員は単なる従業員ではなく、現代生活に人間性を取り戻すために奮闘する主人公です。これは強力なナラティブです。
企業の広報とは、詰まることころたった一つのナラティブの繰り返しです。根本にあるナラティブを様々なバリエーションで発信し続けることが、広報の本質です。

【参考】人々を巻き込むナラティブの力
【参考】脳は物語で記憶する

5-5. 【ステップ5】情報発信に心を込める、ペルソナの設定

マーケティングとは、頭と心で行うものである、と言われます。
頭とはデータと分析であり、心とは社会や顧客を思うヒューマニティです。ペルソナとはこの心の部分を強化するためのものです。
例えば、カレーライスをつくるとき。誰が食べるか知らずに作るのと、大切な人のために作るのでは、仕上がりに大きな差が出るでしょう。そして、そうやって丁寧に作られたカレーライスは、誰が食べても美味しいものになります。

ペルソナの意義。喜ばせたい人は誰か?

かつて、二人の兄弟が喧嘩している姿を見て、松下幸之助は二股ソケットを作りました。これは大ヒットとなり、松下電器産業を世界企業にしました。また、海外出張に出かける際に好きな音楽を聴きたいという、経営者個人の要望から生まれたウォークマンは、革命的な商品となりました。いずれも兄弟だけが使ったわけでも、海外出張に行く人だけが使ったわけでもありません。

ペルソナを明確にすると、それ以外の客を逃すというリスクを感じることがあります。しかし実際には逆のことが起きています。大事なのは、心を込めて作ることです。誰かのために真摯な思いでつくったものは、大勢に広がります。ペルソナは、ターゲットを限定することではなく、仕事に心を込めるために作るものなのです。

また近年、多くのSNSでは「おすすめ」の機能を強化する方向にアルゴリズムを更新しています。フォロワー数と表示回数の相関は小さくなり、いかにおすすめされるかが大きなカギとなりました。その際、SNSのアルゴリズムに大きく影響を与えるのがペルソナの設定です。例えば「海外旅行好き20代女性に向けたアカウント」として、明確に差別化されたコンテンツを発信できると、SNSのアルゴリズムが当該ターゲットにどんどん投稿を表示するようになります。明確なコンセプトとペルソナがあるアカウントは、かなり早いスピードで成長していきます。

【参考】顧客インタビューの価値

SNSのアルゴリズムとペルソナ設定による好循環

① ペルソナの明確化
例:「海外旅行好き20代女性」などターゲットを具体化
② 差別化されたコンテンツ発信
ターゲットに最適化された明確なコンセプトで投稿
③ SNSアルゴリズムが認識
一貫したテーマをアルゴリズムが学習・分類
④ 「おすすめ」表示が増加
フォロワー外のターゲット層にも自動的に投稿が届く
⑤ アカウントの急速な成長
明確なコンセプトとペルソナがあるアカウントは加速度的に成長
ポイント:フォロワー数よりも「おすすめ」への最適化が成長のカギ

5-6. 【ステップ6】無理なく続けられる「発信体制・運用ルール」の構築

情報発信の段階では、「ワンコンテンツ×マルチチャネル」を基本とします。一つの優れたコンテンツを作り、これを様々なチャネルを用いて配信することでリーチの最大化と、情報発信の一貫性を維持する考え方です。

一方で、最近ではSNSごとに役割分担が生まれており、顧客層やアルゴリズムも一様ではなくなりました。当事務所では、WEBサイトを旗艦としてマスターコンテンツを作り、それらを流用しつつ各チャネルに応じてアレンジを加える手法を推奨しています。

企業理念の物語化と、ワンコンテンツ×マルチチャネル

企業理念
企業を支える根本の想い
日々の活動
事業を前に進める日々の活動
結び付けて物語化
1つの優れたコンテンツ
多様なチャネルで展開
【ワンコンテンツ×マルチチャネル】
WEB記事
ブログ・オウンドメディア
プレスリリース
メディア向け発信
SNS
X ・ Instagram ・ Facebook
動画
YouTube ・ セミナー
メールマガジン
顧客リストへ直接配信
イベント・講演
直接コミュニケーション

こうした手法推奨する背景には、メディアの変化があります。かつてのメディア業界は垂直統合型の構造をもっていました。一社がコンテンツの制作から配信まで一貫して手掛ける構造です。例えば、紅白歌合戦はNHKの著作であり、NHKが配役・撮影・企画まですべてを手掛け、独占的に配信をします。これが、当たり前だと思われていました。

デジタル化によって、この構造は大きく変わりました。インスタグラムやYoutubeは配信に特化したプラットフォームであり、コンテンツを作るのはYoutuberやインスタグラマーの役割です。コンテンツ制作と配信が分離して、水平分業型へと変わりました。例えば、大谷翔平選手のホームランは、YoutubeでもXでもDaznでも地上波でも見ることができます。人は、好きなコンテンツを好きなチャネルで見る時代になったのです。

5-7. 【ステップ7】広報KPIの策定が、正しい努力を生みます

インスタグラムや、WEBの閲覧数などは、容易に測定ができるようになりました。これらをモニタリングしながら、常に改善を繰り返すことで広報戦略は洗練されていきます。
特に重要なのは、KPIの設定です。
KPIの発見は、事業の成功には極めて重要です。ブラッドピット主演の「マネーボール」という映画がありました。これはKPIの発見がいかに大切かを示しています。かつて野球は打率の良い選手、ヒットを多く打つ選手が優秀とされていました。しかし、統計学的に分析した結果「アウトにならない選手」が最も勝利に貢献するとわかりました。この映画では弱小球団がデータを活用して出塁率重視に転換し、快進撃を始めていきます。正しいKPIの設定は努力の方向を明確にし、成果への最短ルートを提示することがわかります。

5-8. 【ステップ8】定期的な振り返りとブラッシュアップ

全体の広報計画の推進をみながら、改善施策を打ち続けます。
特に広報計画の方向性について、経営層の関与が求められます。また、定例ミーティングは、将来的な内製化にむけてのスタッフ教育の場としても活用します。

6.まとめ:戦略広報は中小企業の未来を創る経営機能

上記、詳細に説明した通り、戦略広報とは単に露出を増やし企業の知名度を高める活動ではなく、企業理念とそれに基づいた企業活動を物語として表現し、共感を広め、企業の社会的価値を向上させる取り組みへと進化しています。当事務所では、広報戦略の策定と実施を通じて中小企業経営をサポートしています。

ステップ 1 2 3 4 5 6 7 8
企業理念の把握
ビジョンの明確化
社会的価値の発見
物語の構築
顧客イメージの創出
情報発信の設計
数値化・KPI設計
改善

具体的なアクション

Phase 1:1〜2ヶ月
現状把握と企業理念の理解
  • 経営層へのインタビュー
  • ビジョンについてのディスカッション
Phase 2:2〜4ヶ月
社会に向けてのメッセージの発見
  • 会社の歴史の再整理
  • 社員へのインタビュー
  • 理念浸透度のヒアリング
Phase 3:4〜6ヶ月
情報発信の実務と計画策定
  • 発信チャネルの選定・予算化
  • マスターコンテンツの確定
  • WEB・SNS開設
  • 発信スケジュール・役割分担
  • 内製化に向けた教育計画
Phase 4:6〜8ヶ月
実行と改善
  • 月1度の定例ミーティング
  • タスクの割り振りと管理
  • 改善プランと成果の共有
  • 内製化に向けたスケジュール