KNOWLEDGE 中小企業のための戦略広報導入ガイドKNOWLEDGE 中小企業のための戦略広報導入ガイド

5|各ステップについての詳細

1/企業理念の構造としての把握

企業理念とは、日々の仕事に意味を生み出す中心的な価値観です。
多くの会社で企業理念を丸暗記して、一斉唱和をしています。ですが、言葉を言葉のまま覚えるだけでは、理念の活用は進みません。あらゆる理念は、おおむね良いことを言っています。例えば「技術で未来を明るくする」という理念があった場合、これに反対する人はいないでしょう。しかし、“漠然と良いことを言っている”と感じられた時、理念はただの道徳となります。
理念を「意味を生み出す構造」として理解することで、その役割が明確になり、日々の仕事に誇りとやりがいを生む本来の価値を発揮します。

理念の機能は、日々の活動を一つにつなぎ、そこに意味を与えることにあります。例えば「Aさんの成功事例は、このような意味で企業理念の実現に結びついた」「Bさんの作った新商品は、こうして理念に基づいて生まれている」。そうした「意味」を表現することで企業理念は判断基準となり、人々を全体への貢献へ向かわせます。

企業理念とは、その会社の持つ思想や技術、歴史、人々の苦労などをたった一行にまとめて表現をしたものです。それは、企業のすべてを圧縮して閉じ込めたタイムカプセルのようなものと言えるでしょう。
企業理念の理解は、2つの方向に向かいます。一つは背景の理解です。それは、理念の1行に込められたすべての想いを理解することです。もう一つは、解釈です。例えば「技術で未来を明るくする」といった場合、「技術」とは何を指すか、「明るくする」とはどういうことかなどを、一つひとつ膨らませていくことです。解釈は、一行に圧縮された想いを解凍するプロセスであり、また次の人たちが新たな解釈を加えて企業理念を発展させていく契機になるものです。

圧縮された想いを、解凍する

例えば、「技術」にこだわる理由が、創業者の幼少期の原体験にあったとします。「幼少期に母親の苦労を減らしたくて、工夫して道具を作ったら褒められた。それが原点になっている」というエピソードがあれば、「技術」の意味が変わります。そして、今の技術者にとっての顧客を思う気持ちとの共通点を見出せれば、創業の原点と現在の仕事が一連のものであることに気づくことができます。

2/ビジョンの明確化

人々を駆り立てるには、魅力的な目標が必要です。冒険家が険しい山を登れるのは、そこに頂上があるからです。ただの坂道を延々と歩き続けるならば苦行でしかないでしょう。企業にも、向かうべき目的地が必要であり、企業理念が達成された先にある素晴らしい景色を語ることで、社員をモチベートすることができます。

ビジョンは企業理念から生まれますが、理念だけでは足りません。それが非現実的な夢では共感が得られないからです。企業の夢に実現可能性の高い計画が伴うことで、強いビジョンとなります。ビジョンとは「企業が得意なこと」「企業がやりたいこと」「社会が求めること」の3つの領域が重なる部分にこそあります。理念に加え、その会社の持つ独自性が魅力的なビジョンを生み出すのです。

良いビジョンとは、夢と実現可能性を両立する

こうして生まれたビジョンは、会社を前に進めるための重要なエンジンとなります。

3/社会から見た価値の発見

企業理念やビジョンは社会に発信することで共感を生み、会社のブランドを作っていきます。しかし、企業の夢がすぐに社会の共感を得るとは限りません。戦略広報に取り組むのであれば、社会から見た価値を問い直す必要があります。もともとビジョンには、ほぼすべてのケースで社会的価値が含まれていますので、視点を変えれば社会的な関心事になります。スターバックスは、「最高のコーヒーを売る店」から「都市生活者のための第3の居場所」へと言葉を変えたことで、大きな飛躍を遂げました。自分たちの夢が社会の夢になったことで、共感が広がったのです。このフェーズでは、ビジョンを踏まえ、その社会的価値を問いなおし、社会に受け入れられるベースを作ります。

ビジョンからパーパスへ

4/物語(ナラティブ)の構築

広報において、社会に伝えるべき情報は「ナラティブ」の形をとります。これは物語と訳されますが、ストーリーとは少し違います。定義を確認しておきます。
ナラティブもストーリーも日本語では、物語と訳せます。
ストーリーは起承転結があり、一方向に進みます。映画や小説などのパッケージになっているイメージです。ナラティブは、始まりも終わりもなく、現在進行形で進み、私たちを巻き込んでいくような物語です。例えば、思想的に対立する二つの政党があるとします。両者は互いに自分たちに都合の良い物語(ナラティブ)を発信します。どちらのナラティブを信じるかは、すなわち、その人の政治的立場を左右します。

ストーリーとナラティブの違い

ストーリー ナラティブ
構造 起承転結があり、完結している 始まりも終わりもなく、常に進行中
時制 過去形
(すでに完成した物語)
現在進行形
(今も展開し続ける物語)
視点 第三者が語る、客観的な物語 当事者が語る、主観的な物語
参加性 読者・視聴者は、受け手として鑑賞する 聞く人を巻き込み、共に物語を紡いでいく

情報化社会で多くの支持を集めるのは、魅力的で説得力のあるナラティブを発信できる企業です。ナラティブが語るものは社会であり、自社もまた登場人物の一人となります。例えばテスラは、気候変動という社会のテーマを語っており、テスラそのものは地球の危機と戦う登場人物の一人です。
企業において重要なのは、企業理念に基づいた物語を持つことです。「スノーピーク」は野遊び(キャンプ)による人間性の回復を使命として掲げています。一人ひとりの社員は単なる従業員ではなく、現代生活に人間性を取り戻すために奮闘する主人公です。これは強力なナラティブです。
企業の広報とは、詰まることころたった一つのナラティブの繰り返しです。根本にあるナラティブを様々なバリエーションで発信し続けることが、広報の本質です。

5/ペルソナの設定

マーケティングとは、頭と心で行うものである、と言われます。
頭とはデータと分析であり、心とは社会や顧客を思うヒューマニティです。ペルソナとはこの心の部分を強化するためのものです。
例えば、カレーライスをつくるとき。誰が食べるか知らずに作るのと、大切な人のために作るのでは、仕上がりに大きな差が出るでしょう。そして、そうやって丁寧に作られたカレーライスは、誰が食べても美味しいものになります。

ペルソナの意義。喜ばせたい人は誰か?

かつて、二人の兄弟が喧嘩している姿を見て、松下幸之助は二股ソケットを作りました。これは大ヒットとなり、松下電器産業を世界企業にしました。また、海外出張に出かける際に好きな音楽を聴きたいという、経営者個人の要望から生まれたウォークマンは、革命的な商品となりました。いずれも兄弟だけが使ったわけでも、海外出張に行く人だけが使ったわけでもありません。

ペルソナを明確にすると、それ以外の客を逃すというリスクを感じることがあります。しかし実際には逆のことが起きています。大事なのは、心を込めて作ることです。誰かのために真摯な思いでつくったものは、大勢に広がります。ペルソナは、ターゲットを限定することではなく、仕事に心を込めるために作るものなのです。

また近年、多くのSNSでは「おすすめ」の機能を強化する方向にアルゴリズムを更新しています。フォロワー数と表示回数の相関は小さくなり、いかにおすすめされるかが大きなカギとなりました。その際、SNSのアルゴリズムに大きく影響を与えるのがペルソナの設定です。例えば「海外旅行好き20代女性に向けたアカウント」として、明確に差別化されたコンテンツを発信できると、SNSのアルゴリズムが当該ターゲットにどんどん投稿を表示するようになります。明確なコンセプトとペルソナがあるアカウントは、かなり早いスピードで成長していきます。

SNSのアルゴリズムとペルソナ設定による好循環

① ペルソナの明確化
例:「海外旅行好き20代女性」などターゲットを具体化
② 差別化されたコンテンツ発信
ターゲットに最適化された明確なコンセプトで投稿
③ SNSアルゴリズムが認識
一貫したテーマをアルゴリズムが学習・分類
④ 「おすすめ」表示が増加
フォロワー外のターゲット層にも自動的に投稿が届く
⑤ アカウントの急速な成長
明確なコンセプトとペルソナがあるアカウントは加速度的に成長
ポイント:フォロワー数よりも「おすすめ」への最適化が成長のカギ

6/情報発信の設計

情報発信の段階では、「ワンコンテンツ×マルチチャネル」を基本とします。一つの優れたコンテンツを作り、これを様々なチャネルを用いて配信することでリーチの最大化と、情報発信の一貫性を維持する考え方です。

企業理念の物語化と、ワンコンテンツ×マルチチャネル

企業理念
企業を支える根本の想い
日々の活動
事業を前に進める日々の活動
結び付けて物語化
1つの優れたコンテンツ
多様なチャネルで展開
【ワンコンテンツ×マルチチャネル】
WEB記事
ブログ・オウンドメディア
プレスリリース
メディア向け発信
SNS
X ・ Instagram ・ Facebook
動画
YouTube ・ セミナー
メールマガジン
顧客リストへ直接配信
イベント・講演
直接コミュニケーション

ワンコンテンツ×マルチチャネルを推奨する背景には、メディアの変化があります。かつてのメディア業界は垂直統合型の構造をもっていました。一社がコンテンツの制作から配信まで一貫して手掛ける構造です。例えば、紅白歌合戦はNHKの著作であり、NHKが配役・撮影・企画まですべてを手掛け、独占的に配信をします。これが、当たり前だと思われていました。

デジタル化によって、この構造は大きく変わりました。インスタグラムやYoutubeは配信に特化したプラットフォームであり、コンテンツを作るのはYoutuberやインスタグラマーの役割です。コンテンツ制作と配信が分離して、水平分業型へと変わりました。例えば、大谷翔平選手のホームランは、YoutubeでもXでもDaznでも地上波でも見ることができます。人は、好きなコンテンツを好きなチャネルで見る時代になったのです。

7/数値化、KPI設計

インスタグラムや、WEBの閲覧数などは、容易に測定ができるようになりました。これらをモニタリングしながら、常に改善を繰り返すことで広報戦略は洗練されていきます。
特に重要なのは、KPIの設定です。
KPIの発見は、事業の成功には極めて重要です。ブラッドピット主演の「マネーボール」という映画がありました。これはKPIの発見がいかに大切かを示しています。かつて野球は打率の良い選手、ヒットを多く打つ選手が優秀とされていました。しかし、統計学的に分析した結果「アウトにならない選手」が最も勝利に貢献するとわかりました。この映画では弱小球団がデータを活用して出塁率重視に転換し、快進撃を始めていきます。正しいKPIの設定は努力の方向を明確にし、成果への最短ルートを提示することがわかります。

8/改善

全体の広報計画の推進をみながら、改善施策を打ち続けます。
特に広報計画の方向性について、経営層の関与が求められます。また、定例ミーティングは、将来的な内製化にむけてのスタッフ教育の場としても活用します。

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