CL:株式会社箔一/伝統産業
思想を受け継ぐということ
株式会社箔一創業者の浅野邦子氏は、金沢箔という文化を生み出しました。いまでこそ金沢と言えば金箔という評価が定着していますが、ほんの50年前までは全くの無名で、素材産業の一つでしかありませんでした。
素材産業には付加価値を認められにくい面があります。人々はユニクロを知っていても、ボタンや繊維のメーカーにはさほど興味を持ちません。ロレックスに憧れるかもしれませんが、ネジや金具のメーカーなどは話題にもならないでしょう。金箔もまた同じでした。仏壇などの材料の一つとしてみなされ、一般には興味を持たれなかったのです。
ともに夢を見る仲間のために
素材とは、技術の集積であり真の差別化ポイントの一つです。しかし人が憧れを感じるのは製品です。これは、現在でも多くの中小企業・下請け企業の抱える課題です。技術力を価格に転嫁できないのです。
箔の業界においては、浅野邦子氏は50年も前にこの構造を見抜いていました。当時、業界の誰もが疑問を持たない中で、彼女だけが下請けから脱却し、自らのブランドを打ち立てる必要を感じていました。消費者から直接支持されなければ、買いたたかれるだけ。だから、魅力的な商品を作って人々に直接届けなければならない。そう考え、万難を排してやり抜いた結果として、金沢箔という一つの地域文化を作り上げました。これは、偉大な業績といえるでしょう。
彼女は事業家として成功した一方で、人を育てることにも多くの力を費やしてきました。彼女の夢を実現するためには、志を共にする仲間が必要だったためです。彼女と同じ夢を見る以上、スタッフもまた覚悟を持たなければなりません。彼女は、一人ひとりに高い基準を求め、それをクリアさせるために教育に熱を注ぎました。
言葉を残したい
浅野邦子氏は、2023年の2月に天へと旅立ちました。享年76歳はあまりにも早すぎるお別れですが、多くの著作や講演にその思想が残されていました。
浅野邦子語録は、箔一の代表取締役社長である浅野達也氏直轄のプロジェクトとして行われました。彼女の残した言葉をすべて整理し選び抜いて、カテゴリーに分けて再編集をしています。現在、浅野邦子語録は箔一の社員に一人一冊ずつ配布されています。創業者の残した言葉が、一人ひとりの指針となっています。