メディアの何が変わったのか

デジタル化のもたらしたもの

IT革命の中で、最も影響を受けたのがメディア業界です。1990年代の後半、私が地域の出版社に入ったころは情報誌の全盛期でした。なかでも「ザ・テレビジョン」や「ウォーカー」の勢いはすさまじく、読んでいない人がいないほど売れていました。いまの20代の若者たちに、1週間分のテレビ番組表を載せた週刊誌が、日本で最も売れる雑誌だったと言っても、にわかに信じられないかもしれません。

情報が無料になった

こうしたものの価値が一気に失われたのは、メディアの内側にいた分、痛いほどよくわかります。かつては映画館のタイムスケジュールやコンサートの情報などは、雑誌を通じて知るものでしたが、これらの情報がネットで無料で手に入るようになり、情報誌はその役割を終えました。

多くの情報誌は廃刊し、やがて新聞、テレビも力を失いつつあります。この変化は、アナログからデジタルへという文脈で語られますが、それは表面的な事実でしかなく、本質ではないと感じています。

チャネルの解放と水平分業型

メディアの大きな変化は2つあります。1つはチャネルの開放。もう一つは垂直統合型から水平分業型への転換です。一つずつ説明します。

チャネルの開放は、まさにデジタル化の恩恵です。そもそもメディアは情報配信チャネルを独占することで、強い力を持ってきました。地上波放送は、総務省の免許が必要なため新規参入ができません。新聞は自由に出すことができますが、戦時中の統制による一県一紙制によって力を持った新聞社が、ライバルを排除し権力を維持し続ける状況は今も残っています。ここに風穴を開けたのが、WEBでした。IT革命がこうした独占・寡占状態を揺るがしています。

もう一つの変化は、垂直統合から水平分業への転換です。メディアの業界では、少数の配信チャネルがコンテンツを制作し、権利を独占することが一般的に行われてきました。これが垂直統合型です。例えば、紅白歌合戦はNHKの著作であり他社で配信することはできません。こうしたことは長く当然と思われてきました。

それが近年、大きく崩れています。大谷翔平のホームランはBSでも見られますが、SNSでも頻繁に目にします。同じように、動画作品や音楽についても、複数チャネルで配信することはむしろ当たり前になっています。コンテンツと配信チャネルが分離し、クリエイターは自ら配信チャネルを選ぶことができます。これを水平分業型と言います。

良いコンテンツと適切なチャネルの選択が大切

デジタル化がもたらしたのは、チャネルの開放、そしてコンテンツと配信の分業です。こうしたメディア環境においては、情報発信の考え方が大きく変わります。広告の世界では視聴率や発行部数といった、単純な数値に価値がありました。これからは、コンテンツとチャネルの適切な掛け合わせのなかで、狙った消費者に自分たちの情報をいかに届けるかが課題となります。

そして、それらのすべての前提は質の良いコンテンツを持つことです。現代では、企業もまたコンテンツの作り手として位置付けられます。そうした変化に気づき、情報発信力を磨いた企業が競争力を発揮できる時代となっています。