現代の経営課題のなかで「人事と広報」、「企業理念とブランド」の関係性が、とても近いものとなってきています。本書『人事変革ストーリー』を読むと、そうした流れが速まっていることを実感します。
変わる企業価値への考え方
企業価値を測る要素が変わりました。かつて企業の価値は時価総額や資産価値で測るものでしたが、現在ではむしろバランスシートに反映されない無形資産にこそ価値があると考えられています。無形資産のなかで代表的なものは、ブランドと人材でしょう。
人はコストでなく、資産である
この無形資産を生かすためのコンセプトのひとつが、人的資本経営です。人件費をコストととらえる限り、いかにして抑制するかという考えに縛られます。そうではなく、人は資本であると捉えたとき、教育費も含めた人件費にしっかり投資することは、投資対効果を最大化するための正しい経営判断となりえます。
新しい企業と社員の関係性を
こうした考え方が広がる背景には、個人と企業の関係が変化したことがあります。終身雇用が前提の社会においては、会社は社員に安定を提供し、社員は会社に忠誠を誓うことが関係性の基礎でした。ある調査によれば、欧米と比べて日本人は組織に対するエンゲージメントが高い一方、仕事への誇りを示す数値が低く出るといいます。これは、組織に忠誠を誓う人が重宝される、日本的な価値観の反映でしょう。
組織と個人のパーパスを一致させる
これまで企業は、年功序列・終身雇用・企業内組合を3種の神器とし、結束の固さを競争力の源泉としてきました。しかしいま、その時代は終わりました。人々の価値観が変わり、企業は組織の規律よりも、個人の自由意思を優先せざるをなくなっています。副業の解禁や、テレワークの導入などは、その最たる例でしょう。忠誠心で縛ることができないなかで社員をつなぎとめるには、企業の理念と個人の理念を一致させるしかありません。企業の理念が、社員の夢になるような会社にこそ、優秀な人材が集まるのです。
自由な個人が、それでもこの会社で働きたいと思えるように
トヨタの豊田章男氏は社員に向けたスピーチで、「(社員の人は)トヨタの看板がなくても、外で勝負できるプロを目指してください」「みなさんは、自分のために、自分を磨き続けてください」と訴えたうえで、「(そんなどこでも働ける優秀な人が)それでもトヨタで働きたいと、心から思ってもらえる環境を作り上げていく」ことが経営者の責任だ、といった趣旨の発言をされていました。本当にその通りだな、と思います。
当事務所は、広報という立場から、企業のパーパスと日々の取り組みを物語化して、社内外に広げることを目指しています。こうした事業を通じて、企業の理念が、社員の夢になるような、より良い関係性づくりに貢献していきたいと思っています。
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