近年、企業は自社の利益を追求するだけではなく、社会的な存在であることを求められるようになりました。そうしたなか、注目されるのが「パーパス」です。ビジョンがその企業の将来像を描くのと比較して、パーパスは社会的な意義を強調します。ビジョンを達成する主体は社員ですが、パーパスは社会と共有され、より多くの人を巻き込んで実現をめざします。
50年ぶりに変更された方針
パーパスが注目されたのは、2019年に全米の財団ロビー団体「ビジネスラウンドテーブル」が声明を出し、「もはや利益をビジネスの最終目標にしない」と表明したことがきっかけとなりました。それまで同団体の指針は、1970年代のミルトン・フリードマンによる定義「企業の唯一無二の責任は株主への利益還元である」でしたので、大きな方向転換と言えます。
こうした意識は、いまや一般にも広がっています。特にZ世代は、インスタ映えするキラキラ生活をアピールするよりも、むしろ社会的な課題に対して真摯なメッセージを発信するほうがクールだと見なすようになっています。
社会と共に価値を生む
これらの流れを受け、多くの企業は、自らのビジネスを社会のなかに位置づけることを始めています。例えば体脂肪計で有名なタニタは「健康経営」を掲げて、社員らが率先して健康習慣を実践する取り組みを始めました。その一環であったタニタ食堂が有名になったこともあり、「体重計を作る会社」から「健康を創造する企業」へと位置づけを変えることに成功しています。
企業の歴史と社会の要望が重なるところで
パーパス的なものを掲げる企業は少なくありません。しかし、とってつけたような表層的なパーパスでは、すぐに見抜かれます。本書では、真に価値のあるパーパスは、その会社に息づくDNAと社会のニーズが一致する領域にあるとしています。
ソニーは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスを掲げました。これは、同社の理念として受け継がれてきた「テクノロジーの力で社会を変える」というDNAと、社会にある「人間らしく前向きに生きていたい」というニーズが重なりあう部分に、同社の存在意義を見出したものです。その会社の歴史や創業の志といった価値を大切にしつつ、それが社会に貢献できることは何かを真摯に考えることが、企業の社会的な価値の表現となります。
パーパスは掲げるだけでは意味がなく、機会をとらえて発信し続けなければなりません。それは市場向けのみならず、社内への発信も重要です。当事務所では、企業の理念と日々の実践が結びつくところに物語があり、それを社会に広げて共感と信頼を得ることが広報業務の本来の目的であるとしています。新しい時代に求められる企業に進化していくために、広報の領域から貢献したいと思っています。
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