外食産業の、厳しい現状を感じさせる書籍です。
利益が出せない産業構造に
近年、飲食業界ではグルメサイト経由の予約とキャッシュレスによる支払いが一般化しました。仮に、グルメサイトの予約手数料が5%、カードの決済手数料が5%とすると、あわせて10%の利益が削られることになります。飲食店の経常利益は良くて10%ですので、これでは利益のほぼすべてを失うことになります。さらに食材や人件費や水光熱費の高騰を加味すれば、利益を残すことが極めて難しいビジネスになりつつあります。
大手のシェアが増大している
こうした状況の一つの結果として。業界では全国チェーンの売上シェアが高まっています。M&Aが進んだこともあり、大手10社のシェアが13%にまで拡大しました。コストプッシュ型のインフレ下では、スケールメリットを生かし、価格競争力を発揮できる大手が有利です。
こうしたなか苦境に立たされるのが、シェアを奪われる個人店でしょう。
飲食店はコンテンツ産業に
この『飲食店を救うのは誰か』は、その解決策を探っていきます。その答えとして、飲食店が広い意味でコンテンツ産業になっていくことを示唆しています。
飲食店の大きな特徴として、その土地にある食材や食文化の魅力を物語として表現できることを挙げています。成功事例として取り上げられた「BALNIBARBI」は、人々から忘れ去られてしまったような何もない淡路島の西岸にカフェを作り、人々の賑わいを創り出しました。周辺環境は、廃屋しかない荒れ地。地元の人ですら「何もない場所」と見向きもしませんでした。しかし歩き回ってみれば、近隣には素晴らしい生産者がおり、夏のなると聞こえる蛙の声や、波のせせらぎ、なにより夕日の美しさは格別だったそうです。ここで開いた最初のカフェが当たったことから、やがて店舗が増え、キャンプ場ができ、宿泊施設も生まれて、淡路島の新たな名所となりました。町営バスは専用のバス停まで設置しています
「食事」という最強のコンテンツ
その土地にしかないロケーション・食材・文化・歴史を「食事」という誰もが好む人気コンテンツに変えられることが、飲食店の大きな強みです。これは画一化されたメニューでコストダウンを狙う大手とは真逆の戦略であり、地域密着の個人店の強みを活かせる方法となるでしょう。
これまで地域の飲食店でも、新規集客を、クーポン配布などに頼ってきました。これが各種経費の高騰でもはや成り立たなくなってきています。その土地の価値、食材の価値、場所の魅力をわかりやすいコンテンツにして人に伝えることこそが、飲食の役割になりえるでしょう。料理人が地域文化に価値を与えることで、店舗は魅力あふれるコンテンツとなります。
飲食店が地域に賑わいをもたらし、住民と共に発展していくことができたなら、業界全体がもっと良いものになるのでしょう。
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