これまでB2Bの製造業で広報が課題になることは、ほとんどありませんでした。その背景には、川上~川下と表現されるような各段階での役割分担が明確にあり、比較的長期の安定した受注環境を作ってきたことがあります。
崩れる業界の役割分担
いまこれが大きく変わりました。大手メーカーであってもネットを駆使して、全世界から調達先を探すようになりました。中小製造業にとっては、受注環境が不安定になる一方で、優れた技術さえあればグローバル企業からの仕事を獲れる可能性も生まれました。自社の技術をアピールすることで、危機を乗り越えチャンスをつかめる時代になったのです。
そうしたことを背景に、B2B製造業でもデジタル上の接点を整備することが求められています。
重要なのは技術のデータベース化
なかでもこの著者が主張するのは、技術のデータベース化です。多くの製造業は独自の技術を持ちますが、これをわかりやすく整理することが意外とできていないと言います。
多くの企業では主力となる熟練工がいます。彼らの技術は暗黙知化、属人化していきます。これらを棚卸して整理することは、技術承継の上で重要なことなのですが、その仕事にはとほうもない時間も手間もかかる上に、目先の成果が得られません。また、資料編纂室のようなところは、一般的に閑職とみなされがちで、優秀な社員を回しにくいという事情もあるでしょう。
データベースは価値の発見である
これをやりぬくには経営者の強いリーダーシップが必要ですが、社員の意識を変えるためには、技術データベースの真の目的を考えることが必要です。すなわち技術の整理とは、価値の発見に他ならないのです。
時価総額世界一位となったNVIDIAはゲーム向けの半導体メーカーでした。その画像処理の技術が、生成AIや自動運転に有効なことがわかって急成長を遂げました。ペイパルは、もともとはサイバーセキュリティの会社でしたが、その技術が電子決済に役立つことから、ECの成長とともに大企業になりました。技術は、文脈によって価値が大きく変わります。しかしその前提として、そもそも、どのような技術があるかを知らなければ、価値を生むことができません。
製造業の技術を整理し、コンテンツに変えて世界に向けて発信する。それが製造業の基本的な戦略になっていくのでしょう。
コメント