最先端のラグジュアリー戦略
『世界のラグジュアリーブランドはいま何をしているのか?』は、世界のラグジュアリーブランドの動向を詳細にレポートした書籍です。現在、ラグジュアリーブランドは多くがフランスのコングロマリットに集約され、巨大ビジネスへと変貌を遂げています。パリ株式市場のトップ10の中にはLVMH、エルメス、ケリング、ロレアルといったラグジュアリー関連銘柄が4社も入っています。ちなみに、2024年にフォーブスが発表した世界一の富豪は、LVMH会長のベルナール・アルノー氏でした。
日本の工芸は、ラグジュアリーになれるのか
考えさせられるのは、日本になぜこうした産業が生まれないかです。ラグジュアリーの持つ中心的な価値は、上質なクラフトマンシップ、細部へのこだわり、行き届いたカスタマーサービス、洗練されたデザインであり、これらは日本の工芸においても豊富にそなわっています。先進的なデザインでは欧州トップクリエイターの後塵を拝するかもしれませんが、クラフトマンシップや細部へのこだわりなどは、日本の職人は世界でも群を抜いています。海外の人がみたら、偏執的ともいえるほどのこだわりを持つのが、日本の職人たちです。
エルメスもかつては伝統産業
エルメスが今もコア事業として馬具製造業を継承しているように、彼らもまた伝統産業にルーツを持ち、誇り高い職人技を中心的な価値としながら、大きなビジネスへと発展しています。エルメスの高級革製品を作れる職人は、世界に250人~300人。職人をしっかりと育成し、技術を受け継ぎながら職人技をブランドに育てたことが、大きな成功につながっています。エルメスのフランス国内での売り上げはもはや全体の1割以下しかなく、世界中に展開してファンをつかんでいます。
日本になぜLVMHが生まれないのか
「日本になぜGAFAが生まれないか」という議論はしばしば聞きますが、「日本になぜLVMHが生まれないか」も、大いに考えるべき課題です。シャネルは羽根細工や金銀細工などの工房に出資をして、その技術を守っています。彼らが大切にする、メティエダール(芸術的価値のある職人仕事)、サヴォアフェール(職人たちの芸術的価値を生む技法・ひらめき)といった概念の根底には、職人に対する尊敬があります。これらはまだ日本には根付いていないように思います。むしろ、職人仕事は若者から敬遠され、安月給のブルーカラーとして社会的な価値が低いものと考えられがちです。
職人の価値を高め、世界にその価値を示す
ある伝統産業のメーカーが工場見学を実施したところ、訪れた母親が子供に向かって「ちゃんと勉強しないと、こんな仕事しかできなくなるよ」と諭していたことがあったそうです。悪気はないのだろうと思いますが、そうした社会の意識が、日本にある本当に価値のあるものを貶めてきた面は否定できないでしょう。美輪明宏の「ヨイトマケの唄」は、土方の息子が大学を出てエンジニアになる立身出世の物語ですが、昭和のころには額に汗して働くブルーカラーよりも、インテリのホワイトカラーを目指すべきだという風潮は確かにありました。
今やらなければ、もうできない
これから日本は成熟期を迎えます。工業製品のなかでも、汎用品の生産はほとんどが途上国に移っていくでしょう。フランスが証明したように、職人技には巨大なマーケットがあります。伝統技術の価値を見直し、これをブランドに変えて世界へと訴えてけば大きなビジネスを築き上げることも可能です。
一方で、国内の伝統産業の担い手は、年々減り続けています。60歳で若手と言われるような業界は、大げさではなく、本当に存亡の危機と言えます。いまできなければ、もう二度とチャンスはないでしょう。
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