そもそもナラティブとは?
近年、ナラティブという言葉が注目を集めています。広報やマーケティングのみならず、経済学や国際関係の分野でもナラティブが重要視されています。ナラティブとは「物語」のことですが、起承転結のあるストーリーと違い、現在進行形で進みながら人々を巻き込んでいく力を持つのが特徴です。
ある論文ではストーリーを「物語」、ナラティブを「物語り」と訳していました。ストーリーは名詞であり、ナラティブは動詞という理解です。
国際関係にも大きな影響を及ぼす
国際関係において、ナラティブが非常に重視されるようになりました。あらゆる国家は、味方を増やすために、多彩なナラティブを発信します。とりわけ国際紛争が起きれば、当事国は自分たちに都合の良いナラティブを拡散させます。それらは互いに矛盾を生じるため、一人ひとりにどちらの話を信じるかという問いを突き付けるでしょう。そして、信じるべきナラティブを決めることは、自分がどちらの側に与するのかを選ぶことにほかなりません。このようにして、ナラティブは人々を巻き込んでいきます。
SNSで加速するナラティブの影響
ナラティブは日常の暮らしにも大きな影響を与えています。例えば、親は子供に天国や地獄といったナラティブを語り、これを信じさせることで、「嘘をついてはいけない」「物を粗末にしてはいけない」といった倫理観を育んでいきます。現代では神話の力が弱まったとわれていますが、一方でSNSが発展したことから、真偽が不確かな情報が大量に発信されるようになりました。まさに無限のナラティブが語られるようになったと言えます。
現代人はおびただしい真偽が不確かなナラティブにさらされ、何を信じるかを自ら決めなければなりません。それは、人々の考え方や価値観に大きな影響を与えています。
人々の共感を集め、巻き込んでいくために
ビジネスの世界でも、意識的にナラティブの力を活用する動きが増えています。現代社会において人々は、自らの価値観に従って消費先を決めますが、その価値観は企業が発信するナラティブから大きな影響を受けています。
優れたナラティブは、多くの人の共感を勝ち取ります。魅力的なナラティブを受け取った人は、その発信者に好意をいだき物語に参加したいと感じるでしょう。こういった物語を日ごろから発信できれば、ファンが増え、事業はおのずと成長していきます。
例を挙げれば、イーロンマスクはナラティブの達人といえるでしょう。「火星への移住」を目指してロケットを飛ばし、「温暖化を止める」と宣言して先進的な電気自動車を開発しています。彼の語るナラティブは荒唐無稽な夢物語のようですが、ロードマップを示し、一つずつ実現していくことで多くの人から注目と関心を集めています。
ネットフリックスの道しるべ
日本のPRの第一人者である本田哲也氏が書いた『ナラティブカンパニー』は、SNS全盛の現代だからこそ、読まれるべきビジネス書です。ナラティブの実践方法について、理論と実例でを学ぶことができます。
同書では、ナラティブの良い例として、ネットフリックスが社員に示しているサン=テグジュペリの言葉を紹介しています。
船を造りたいのなら
人を呼んで材木を集めさせたり
仕事を割り当て
命じる必要はありません。
代わりに、果てしなく続く海への
憧れを説いてやりなさい。
企業広報でも同じです。モノを売りたいのなら、メリットを叫び、買ってくださいとお願いするよりも、企業が掲げる夢を精一杯語ることのほうが有効な時代になったと言えるでしょう。
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