日本のPRの第一人者、本田哲也さんの書籍。PR業界ではスタンダードな本でもあります。
広告と広報はどう違うのか
広告と広報がどう違うのか、と聞かれても、すぐに答えられないかもしれません。広告は広く告げる。広報は広く報じると書き、言葉の意味はほとんど同じです。英語にすると違いは明確になります。広告=Adverticementとは注意関心を惹くという意味であり、広報=PublicRelationsは社会との信頼関係の構築となります。そもそもの目的が違うのです。
社会の変化が広報の価値を変えた
広報が注目されるようになった背景には、メディア環境の変化もあります。ネットの発達によって、膨大な情報が行きかうようになり、いまや人々は1日に5000ものマーケティングメッセージに触れています。かつて、ものの数社しかないテレビ局や新聞社だけを情報源としていた時代には、広告を掲載することに大きな効果がありました。しかし時代は変わりました、もはや誰もが見るような媒体は存在せず、短期のキャンペーンの効果も薄れています。重要なのは、長期的な視野をもって社会との関係性を築いていくことです。ブランディングへの意識が高い企業ほど、施策の中心に自社のWEBサイトやSNSをおき、地道にファンを広げていくことに取り組んでいます。広告的な発想から、広報的な発想に変わってきているのです。
広報は、社会との対話である
ある意味では、広報とは社会との対話といえます。本書では、戦略広報はまず社会の関心事からスタートすべきだと説いています。米国大統領選では、バラクオバマは保守的なジョンマケインとの違いを明確に打ち出すために、初の黒人大統領という個性を利用して、自身と新しいアメリカのイメージを重ねました。トランプは逆に、きれいごとのリベラルの欺瞞を付き、社会から取り残された貧困白人に目を向けることで人々を熱狂させました。いかに素晴らしい主張があったとしても、受け手側の心を掴まなければ届くことはありません。社会で求められるものと、自社の強みが重なり合うところに情報としての価値がうまれるのです。
企業側にある関心事は、商品を売りたい、買ってほしい、ということでしょう。しかしそれは、社会の関心事ではありません。あくまで、社会課題と自社の強みに集中すべきだといいます。
認識変容をもたらし、行動変容につなげる
PRの最終的な目標は「行動変容」です。企業の名前を知ってもらい、パーパスを伝えても行動が変わらなければ意味がありません。政治家であれば投票してもらうこと、ビジネスであればお客様になってもらうことです。
行動変容の前段階には、必ず認識変容があります。広報が直接働きかけるのは、この認識変容の部分です。例えば、洗剤の業界では、かつては花王のアタックが圧倒的王者でした。「スプーン1杯で驚きの白さに」をキャッチコピーに”洗浄力”を大きな武器としてきました。これに対してアリエールは”除菌”の概念を持ち込み、シェアの逆転に成功します。人々が洗剤に求めるものが、洗浄力から除菌へと変わったのです。もし、アタックに対して洗浄力で上回ろうとしても、こうしたシェアの逆転は困難だったでしょう。
戦略広報の6要素とは
認識変容を促すPRに必要なのは、社会性・偶然性・信頼性・普遍性・当事者性・機知性の6要素だとしています。
・社会性とは、世間の関心事や課題と結びついて有益であると思わせるもの
・偶然性とは、押し付けでなく、消費者が自らの判断で見つけられるようにすること
・信頼性とは、専門性や権威性があり、また正直であること
・普遍性とは、誰もが心の奥底で感じていることを、ずばり言い当てること
・当事者性とは、情報を受け取った側が「自分のこと」だと感じられること
・機知性とは、知的でユーモアがあり人を楽しませるサービス精神に富んでいること
これらを兼ね備えて、戦略的に情報を積み上げることが、広報担当者に求められています。そのうえで、戦略広報は短期的に成果を生み出すことは困難ですので、企業理念といった根本的な思いも大切になってきます。
自社の存在価値を見つめ直す時
企業が存在していけるのは、市場に価値を認められているからです。あらゆる企業には存在している理由があり、社会への貢献があります。そこを深く突き詰め、人々の関心事と重ね合わせ、戦略的に発信し続けることが、これからの企業活動に求められています。
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