推理小説のジャンルで「ホワイダニット」、というものがあります。英語にすると「Why done it ?」、すなわち動機を推理するジャンルです。犯人が分かっており、証拠もある、ただ動機がわからない。それを事件の解決と言えないのは、人間が常に理由を必要とする生き物だからでしょう。
理由を聞かないと安心できない
理由を大切にするのは、社会のいたるところで見られます。企業の採用試験では志望動機、人事異動ならその理由、予算を執行する際、ましてや会社を辞めるとなれば、なんで?どうして?とみなから問われるでしょう。
もし純粋に必要なスキルを持った社員が欲しいだけなら、雇うのに動機は特に必要ないはずです。それでも、必ず志望動機を確認するのは、働く理由にこそ価値があると考えるからでしょう。
脳は理由を欲しがる
『人を動かすナラティブ』は、現代のナラティブ(物語)研究について非常にわかりやすく整理をされています。なかでも、人間の脳が、いかに物語を必要としているかについて興味深い記述が多くあります。このなかで解剖学者の養老孟子さんは、「ナラティブっていうのは、我々の脳が持っているほとんど唯一の形式じゃないのかと思うんです」と語っています。脳は事実を事実として記憶することが苦手です。ですから要点だけを覚え、それらを因果関係でつなぐことで記憶に定着させていきます。これをエピソード記憶といいます。
エピソードで記憶する
「王が死んだ、王女も死んだ」は、記憶に残りません。事実の羅列だからです。
「王が死んだ、悲しみのあまり王女も死んだ」となると、王女の悲痛さを感じることができます。因果関係があるから、脳内にイメージを作ることができ、記憶に残ります。
私たちは、企業活動をコンテンツ化することの大切さを訴えていますが、それもこうした考え方に基づいています。きちんと理由を説明することで、人々の記憶に残っていってほしいのです。
企業の活動を物語として語る
企業が行動を起こす理由は、突き詰めればすべて企業理念にいきつきます。自分たちの理想とするものを目指し、そこに近づくために行動する。その姿をきちんと言葉に置き換えていくことは、企業のブランドを創り上げていくうえで死活的に大切です。
イーロンマスクが、なぜ電気自動車に取り組むのか。それは化石燃料を燃やす文明を終わりにしたいから。そのことを知っている人たちは、テスラのクルマに乗っていなくても、彼の言動に注目します。
新商品が出ました、お得です。は情報であっても、物語ではありません。情報と情報の間にある因果関係をしっかり伝えることで、人の記憶に残すことができるのです。
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