ソフト・パワーとは文化や価値観への共感から生まれる「引きつける力(魅力)」のことを指します。軍事力や経済力に代表されるハード・パワーと対になる言葉であり、米国の国際政治学者ジョセフ・ナイ氏が1990年頃に提唱した概念です。現代の企業広報の世界においても極めて有効な示唆を与えてくれます。
敵を作るより、味方を増やすことが有効
戦争においては、多くの敵を倒すこと以上に、多くの味方(共感者)を作ることが決定打になる場合があります。米国が戦った二度のイラク戦争はその典型例です。
一度目の湾岸戦争では「クウェート解放」という大義があり、国連決議を経て多国籍軍を組織することで、国際社会における正当性を保ちました。しかし二度目のイラク戦争では、国連安保理での合意形成を経ることなく、大量破壊兵器の存在という不確実な根拠のもとで軍事作戦に踏み切りました。圧倒的な軍事的優位は揺るがなかったものの、国際社会で反米感情が噴出し、米国は自らの信頼を大きく損なう結果となりました。
また、米ソ冷戦の終結にもソフト・パワーが大きく関与しました。東側の統制を越えて届いた西側の自由な空気や、若者を熱狂させたビートルズやプレスリーの音楽は人々の心を動かし、やがてベルリンの壁を突き崩す原動力となりました。
広報は「ソフト・パワー」に学ぶべき
この構図は、企業活動にもそのまま当てはまります。
営業力や大量の広告出稿といった「ハード・パワー」は、短期的な売上やシェアを生み出す上で有効ですが、それだけで持続的な成長を維持することは困難です。長期的に事業を支えるのは、ブランドへの愛着や社会的信頼、共感といった「ソフト・パワー」です。しかしこれは、数値化や効果測定が難しいため、どうしても後回しにされがちです。
情報が氾濫する時代になり、一方的な売り込みや大量広告は生活者に届かなくなりました。情報が多すぎる現代では、人々は個々のメッセージの内容よりも、「発信者は信頼できるのか」「どのような姿勢で語っているのか」という語り手自体のあり方を厳しく見定めています。パーパス(存在意義)や社会的責任が問われるようになった背景には、こうした生活者の意識の変化があります。
現在の広報が取るべき立場は、メッセージを一方的に発信することではありません。企業の文化や価値観をコツコツと伝え、ステークホルダーが味方になってくれるようなソフト・パワーの活用が求められています。即効性はなくとも、積み上げた信頼と共感は、長期的な企業価値を創出していくでしょう。
ソフト・パワーを駆使し、市場と対話する
企業には経済的価値と社会的価値の2つの価値があります。「経済的価値」が財務諸表で可視化されるのに対し、「社会的価値」はステークホルダーとの対話と合意によって形成されていきます。ソフト・パワーを駆使して市場と誠実に対話することは、企業広報にとって主要な課題となっていくでしょう。
当事務所では、企業理念やパーパスと企業活動を結び付けたストーリー(物語)を紡ぎ出し、戦略性・一貫性・継続性をもって発信する「戦略広報」の支援を行っています。表面的な認知拡大にとどまらず、社会から長く愛され、応援される企業を目指す力になりたいと考えています。
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