『テクノロジカル・リパブリック』は、米国の先端AI企業の一つである、パランティア・テクノロジーズの経営者が書いた思想書です。米国の技術者たちの視点をかいま見ることができ、いわゆる「テック右派」と呼ばれる人たちが、ある種の確信に基づいて活動していることがよくわかる一冊です。
右傾化するシリコンバレー
これまで、シリコンバレーはリベラルな思想に親和性があり、国家や政府とは一線を画してきました。その代表ともいえるGoogleはかつて、米国国防総省のAI軍事利用プロジェクト(メイブン計画)に参加する予定でしたが、3000人もの技術者が反対署名に名を連ね、これを阻止しました。技術者たちは、自らの知識やスキルを軍事に使うことを明確に拒否したのです。
しかし、著者はこうした動きを痛烈に批判します。GAFAは世界最高クラスの人材を高額報酬で集めながら、結局は「ネット上のショッピングモール」や「おしゃべりの場(SNS)」を作っただけで、人類文明の進歩にはほとんど貢献していない、というのです。
戦争の最前線を支えるAI企業
パランティアは創業時からCIA(中央情報局)に協力し、AI技術を米軍や情報機関に供与してきました。その技術は今、ウクライナ戦争や中東紛争といった、現代のハイテク戦の最前線で活用されています。
左右に関わらず、彼らの思想には「エリート意識」が見え隠れします。ずば抜けた能力を持って生まれた存在として、その頭脳の「正しい使い方」に向き合わざるを得ないのです。その問いに対して、リベラル派は権威を嫌い、個人をエンパワーメント(能力開花)する方向に向かいました。そのひとりがスティーブ・ジョブズであり、彼はかつて巨大組織しか持てなかった情報力を、スマホという形で個人の手のひらに収めました。
一方でテック右派は、中国に代表される権威主義国家が、民主主義的な手続きをショートカットして最先端技術を国際紛争に投入している現実を直視せよと説きます。米国に代表される民主主義陣営も、綺麗事を捨てて技術を武器として国家防衛に投入し、対抗すべきだという論理です。
エリート主義に見え隠れする「残酷さ」
しかしながら、テック右派の描くエリート主義は、原爆開発に成功したあの「マンハッタン計画」にも重なり、複雑な印象をもたらします。
エリートたちが、世界を前進させる力を持っていることは事実です。しかし彼らの使命感はどこか、一般大衆への想像力の欠如をはらんでいます。特にマンハッタン計画がもたらした悲惨な結末を身をもって知る日本人としては、その論理に拒絶反応があることも事実です。 「ナチスに先を越されたくない」という動機で原爆を開発したオッペンハイマーと、「権威主義国家に負けられない」として国家権力と手を結ぶテック右派らの思想は、かなり似通って見えるのです。
AIが無垢ではいられない現実世界
テック右派の持つ現状認識は、かなり的確です。しかしその合理主義にはある種の残酷さが潜んでいます。そうでありながらも我々は、彼らの生み出すハイテク技術やその防衛力に依存しています。
巨大な力が覇権を争う世界では、AIも無垢なる存在ではいられません。新たな技術と人類はどう向き合うのか。その問いは、案外と重たいものだと感じさせられます。
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