マーケティング調査において、アンケートやインタビューは定番といえるものです。しかし、顧客の言う通りに商品を作ればヒットするかと言えば、決してそんなことはありません。
アンケート調査には「消費者のホンネ」は反映されません。そもそも人は「自分が何を欲しがっているか」もわかっていません。だから、顧客自身すらも気づいていない心の奥底の欲求——「インサイト」を掴み取る必要があるのです。
書籍『インサイト』から、パーソナルな欲望を深掘りしてインサイトを発掘する方法について考えます。
アンケートはうそをつく
かつてマクドナルドが「どんなメニューが欲しいか」というアンケート調査を行ったことがありました。その結果、「ヘルシーなメニューが欲しい」「サラダを置いてほしい」といった要望が多数を占めたそうです。
そこで、「サラダマック」という健康志向のメニューを開発・発売しましたが、まったく売れませんでした。一方で、その後に発売された、肉の量をガッツリ増やした高カロリーな「クォーターパウンダー」は大ヒットを記録します。
ここに、マーケティングの本質が隠されています。顧客は「ヘルシーなものが食べたい」と口では言いながら、無意識に「ジャンクでジューシーな肉にかぶりつきたい」という欲望を抱えていたのです。
人は「自分が本当は何を欲しているか」を知らない
脳科学の知見によると、脳内での情報処理の95%~90%は「無意識(深層心理)」で行われることがわかっています。人が論理的に考え、意識的に行うことはごく一部にすぎません。
一例を挙げます。
キャッチボールをしているとします。仮にロボットであれば、飛んでくるボールの距離や速度、角度、空気抵抗などを測定し、高度な計算を行って落下地点を推定する必要があります。しかし人間が、そのような複雑な方程式を解くことはありません。感覚でボールをつかめるからです。これは、過去にキャッチボールをした経験を脳が記憶しており、オートマチックに身体を動かしているのです。私たちの脳は考えずに身体を動かすことが得意です。だから、なぜボールをつかめたのかと聞かれても、正確に答えることはできません。
同じように、ほとんどの場面で、人はその行動をとった理由を把握していません。アンケート調査で得られる回答があてにならないのは、わずか5%の「意識」で考えた「建前」や「理想の自分」に過ぎないからです。
「一番うれしい瞬間」の裏側にある不満
同書ではインサイトを探るために、一見関係のないような質問から本音を探っていきます。例えば、ある主婦に「子育てをしているなかで、どんな時に喜びを感じますか?」と問いかけた際、「休日にアウトドアにでかけ、夫が子供と楽しそうに遊んでいる姿を眺めているときが、最も幸せ」と答えが返ってきました。
この微笑ましい家族の風景の裏側には、「平日の広間、家の中で子供と二人っきりで過ごす時間に、息苦しさを感じている」という不満が眠ってる可能性があります。
ですから彼女が今、新しい家具や家電を買わないのは「お金がないから」でも「商品が魅力的でないから」でもありません。「ただでさえ息の詰まるような生活空間に、これ以上モノを増やしてノイズを大きくしたくない」という切実なインサイトがあるのです。
こうした個人の本音や痛みにまでアプローチして初めて、本当に届くメッセージや商品アイデアが見えてきます。
技術を磨く前に、人間の「心」を研究せよ
精緻なリサーチやアイデア開発のプロセスを通じてインサイトを探り当てるために、欠かせない土台があります。それは、「人間に対する興味と関心」です。
HONDAの創業者である本田宗一郎氏は、かつてこのような言葉を残しています。
(本田技研工業の)研究所は人間の気持ちを研究するところであって、技術を研究するところではない。 研究所の技術者が第一にすべきことは、お客様の心を研究し、お客様に喜んでもらう将来価値を見つけること。そのうえで、技術を手段として将来価値を実現すればよい
どれだけ高度な技術があっても、「生身の人間」に目が向いていなければ、宝の持ち腐れになってしまうということでしょう。特に、社会が成熟し、あらゆる商品において差別化が難しい現代では、人間への興味は極めて重要な視点となっています。
データを超えた先にある、顧客の「不」を探そう
顧客のインサイトは、集計グラフの中に見つけることはできません。なぜ、あの人はあんな発言をしたのか?その言葉の裏にある、本当に満たしたい個人的な欲求は何なのか?そうしたことを考えつつ、人間への深い愛着を持って「無意識の欲求」を掘り起こすこと。それこそが、市場を動かすヒット商品を生み出すカギとなるのでしょう。
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