AIの時代になると、答えを出す能力よりも、問いを生み出す力が求められます。本書『問いの編集力』が探求するのは、良い問いを生み出す考え方です。ベースが哲学ですので、すぐに使えるノウハウはありません。むしろ頭の体操のような内容となっています。
本書では優れた問いとは下記のプロセスによって生まれるとしています。
・土壌をほぐす:「私」の枠組みをゆるめる。
・タネを集める:違和感や好奇心を拾い集める。
・発芽させる:集めたタネ同士を結びつけ、新しい視点を生み出す。
・結像する:自分ならではの「問い」として形にする。
こうした哲学的な探求は興味深いものの、一見して意味が分かりにくいところがあります。ただ、本書を読んで感じたのは、優れた経営者は、すでにこうした考え方を身に着けているのではないかということです。
「私」という境界を外し、システムの一部になる
本書において「問い」とは、「この世界に隠れている何かを発見し考察すること」と定義されています。その際には「私」という枠を外し、世の中を俯瞰する視点が必要です。
印象的な「木こり」の例え話が登場します。
木が倒れるのは、木こりが木を切っているからではない。
斧は重力によって下がろうとする。それを木こりの腕が振り上げ、振り下ろされた斧が木を傷つけ、削り取る。そして最終的には、重力に負けて木が倒れていく。
つまり、木が倒れるという現象は、地球の重力、木、斧、そして人間の腕や目など、「システム全体」が働いた結果なのだ。
ビジネスも似たようなところがあります。 世の中を大きな流れ(システム)として理解すれば、自社もまたその一部として位置づけられます。「私」が成果を上げるとは考えず、システムの流れを読むことで、望んだ結果を得ようとします。経験豊かな経営者は、この「システム視点」を本質的に理解しているように思います。
ですから、不景気や突然のトラブルなど「かなり厳しい状態」に見舞われたときにも、不思議と落ち着いています。どこか達観しているようですが、感情を失っているのではありません。自分自身の状況を、まるで上空から眺めるように客観的に俯瞰(ふかん)しているから、落ち着いていられるのでしょう。
こうした視点を持つ経営者は、世の中の流れが変わったときにも、システムに生じる違和感にいち早く気づき、自社の方向性を正しく変えていくことができます。成功している人は、日常的に良い問いを発している、ともいえるのでしょう。
学ぶことより「気づくこと」にフォーカスする
「問い」とは、この世界に隠れている何かを発見し深く考察することです。良い問いを見つけるために大切なのは、小さな違和感に気づく感性です。
私たちは日頃、情報収集のために本や新聞に目を通します。しかし、単に知識をインプットするだけでは、良い問いは生まれません。それよりも、「何に違和感を覚えたか(気づき)」「なぜそうなっているのか(問い)」にフォーカスすることが大切です。
「私」という主観から一歩離れ、世界をシステムとして俯瞰し、違和感に気づいてその正体を探る。そんな思考を身に着けることで、日々の仕事は今よりもずっと知的で、充実したものに変わっていくのでしょう。
よく見れば薺(なずな)花咲く垣根かな 松尾芭蕉
これは、本書で紹介されている松尾芭蕉の俳句です。何の変哲もない日常に気づきを得て、ごく短い言葉で描き切る瑞々しい感性が表れています。こうした視点が、良い問いを生む力になるのです。
私は、広報として企業のお手伝いをしています。広報もまた、社会と組織の小さな違和感に気付き、それを言語化していく仕事でもあります。良い問いを生むことが、良い情報発信を生むことになるよう、考え方を磨いていきたいと思います。
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