想いの強さが組織を変える

『共感経営』は、日本を代表する経営学者野中郁次郎氏による著作です。2020年の出版ですが、これからの日本企業が目指すべき方向性について、野中氏ならではの鋭い見識で語っています。

日本企業の三大疾病とは

著者は、日本企業をオーバー・プランニング(過剰計画)、オーバー・アナリシス(過剰分析)、オーバー・コンプライアンス(過剰法令順守)の「三大疾病」だとしています。つまり頭でっかちの組織になってしまったことで、自由闊達な活力を失っています。イノベーションを起こせず、競争力を無くした大きな理由がここにあります。

こうした現状を打破するのが、「共感経営」です。いまも元気な企業は、共感の力が推進力になっているといいます。それは、人の感情には、論理だけでは動かないもの動かし、分析しても決して出てこないような成果を生み出す力があるからです。

想いの大きさが、組織を変える

キリンビール高知支局の有名なエピソードがあります。ここは、社内でも最も成績の悪い支局として知られていました。新任の支店長は現状を変えるため、「高知ではどこに行ってもキリンビールがあるようにする」というビジョンを掲げました。ビジョンそのものは、至極ストレートでひねったものではありませんが、支店長の熱意がスタッフの共感を呼び、支店全体を動かしました。総力戦で泥臭い顧客回りをやりぬき、その結果、劇的な復活を遂げました。

現代では、共感は単なるあったらよいというものではなく、重要な経営資源だと位置づけられます。かつて経営資源とは人、モノ、金でしたが、やがて知識や情報が加わり、第6の経営資源として「共感」の価値が注目されているのです。

共感とは、人間の本能である

人間には、本能的に共感能力が備わっていると言います。

赤ちゃんは、大人のしぐさを真似をして、社会性を身に着けていきます。こうした学習能力は脳の中にある「ミラーニューロン」によってもたらされています。人間の脳は、美味しそうに食事をしている人を見ると同じように反応し、大けがをした人を見ると自分まで痛みや悲しみを感じます。実は脳においては、自分と他者の境界は曖昧になっています。だからこそ進化の過程で共同生活を営むことを覚え、個体としては弱い人間が他の動物を圧倒するに至ったのです。

知的体育会系になれ

筆者は、こうした共感を育てる手法として「知的体育会系」というコンセプトを掲げています。これは端的に言うと「動きながら考える」スタイルのことです。知的体育会系のリーダーは、現場にどんどん入っていき、自ら汗を流して体験を積み上げます。そのなかでコツを知ると、知性を活かして本質をつかみ、言語化して全スタッフに共有します。こうした行動力と頭脳を併せ持った「知的体育会系」こそが、企業の推進力になるのです。

また、共感を戦略に落とし込んでいくには、「物語り」が欠かせないといます。物語は分析思考をはるかに超えた成果をもたらします。

分析よりも物語りが大切

分析とは事実を見て、因果関係を探求する行為です。一方で物語りとは、複数の行為の関連性のなかに意味を見出すことを言います。それは販売数や単価といったファクトのみならず、個人の想いや粘り、負けん気といった非認知的な領域にも注目し、そこに共感の種を探ります。

分析的な組織では、営業成績など、数値で図れるもの評価し、メンバーを一定の方向へと向かわせようとします。物語りを重視する組織では、個人の想いや努力といった見えないものに意味を見出し、共感を集めて人を成果へと駆り立てます。

分析とはすでに起きた過去しか扱えませんが、物語りは、未来を描くことができます。本書では、優れたリーダーに求められる条件として、未来構想力を挙げています。共感を集めるリーダーは、大局的な視点を持ち、共通善に根ざした存在意義を問い、自分は何をすべきなのかという生き方の目標を明確にします。複雑に絡み合うミクロの事象から必要なものを探して結び付け、論理では到達できない未来像を描きだします。

編集翻訳能力こそ、リーダーの資質

一人ひとりの想いに意味を見出し、共感を集める物語を生み出す力は、編集翻訳能力と言えるでしょう。

当事務所では、、企業広報という立場から、経営者を支援しています。経験を積む中で、情報を多くの人に届けることよりも、良い物語を発掘することのほうが重要だと感じるようになりました。広告は日々消費されていきますが、企業の物語りは資産として語り継がれていきます。一つの物語りが、何十年にもわたって企業を支えるということも、起こりうるのです。

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